この記事は2020年3月5日に書きました。今世界で何が起きているかというと、新型コロナウイルスの感染拡大。
日本はウイルスそのものに対してまだ危機感が薄い人が多いのか、どこかのほほんとした空気もまだあります。この先どうなるかは分からないけど。
一方で、様々な商品の爆買い・買い占め問題が勃発。マスク、除菌アルコール、この辺はまあ分かる。
2月末頃からは、突如トイレットペーパー、ティッシュペーパーなどの紙類がスーパー、ドラッグストア、コンビニの棚から消え去りました。
どうやらSNSで「トイレットペーパーは中国産なので今後品薄になる」旨のデマが流れたのがきっかけだとか。
私はてっきり、政府が2月27日に発表した公立小中高一斉休校要請の影響でちょっとしたパニックが起きたのだと思ってたんだけど。
さて今回の記事は、心理学の本を読みながら、今回の騒動では人々にどんな心理が働いたのか?について考えてみようかなと思います。
なお、私は心理学についてきちんと学んだ人間ではありません。
あくまでこの本1冊を読んで、今回の騒動と照らし合わせてみただけなので悪しからず。
トイレットペーパー騒動の経緯をおさらい
2月末から3月頭にかけて何が起きていたのか。
- 2/27 AMTwitterでデマが流れ始める
コロナで品薄になる品予測を根拠つきでお伝えします。次は、トイレットペーパーとティッシュペーパーが品薄になります。
Twitter
製造元が中国です。生産元がティッシュペーパーやトイレットペーパーをそもそもしていないのが根拠です。
品薄になる前に事前に購入しておいた方が良いですね。該当のツイートは削除済み。
ただしトイレットペーパーが不足するのでは?という旨のツイートはこれより前から散見されていた模様。
- 2/27 PM政府が全国の公立小中高一斉休校を要請
私は当初はこれが原因だと思っていた。多少は関係してると思う。
- 2/28 AM熊本でのトイレットペーパーの買い占めが報道される
- 2/28 PMあっという間に各地で品薄になる
- 2/29頃~コンビニなどでトイレットペーパーの盗難が相次ぐ
- 3/3全然おさまらないどころか食料品まで品薄に
- 3/3イオン東雲店に大量のトイレットペーパーが並び始める
圧巻。私、思わず腹抱えて笑う。
- 3/4 AM米子医療生協の職員がデマの投稿をしたうちの1人と報道される
調べればすぐに出てくるのでどこかって伏せないけど、くれぐれもこの生協に電話クレーム入れたりとか、中傷したりしないように。
この生協が悪いわけじゃない。むしろ良く見つけて謝罪文出したと思う。
まあ、私のブログの読者様は、変に騒いでクレーム入れたりしない人たちだって知ってる(*´ω`)
- 3/4 PMイオン東雲店で補給され続けるトイレットペーパー
「狂ったように補給され続けており、この状態。品余りでもはや誰も買ってません。」
Twitterで拾える情報を時系列にすると大体こんなところでしょうか。
では、心理学の本に今回の現象を説明できるものがあるか探してみましょう。
Chapter 2のイントロダクションで大体答えは分かる気がする
この本、心理学をデザインに応用して「売れる」ためのテクニックを解説している良著。
おおまかにはChapter 1、2の二部構成。
- Chapter 1は「心理学を考慮したユーザーインターフェイス」
- Chapter 2は「心理学を考慮したマーケティングとは」
Chapter 1では結構具体的なデザインの話。配色とか配置とか、「見た目」をどうすればユーザーに響きやすいか、という内容と言えます。
Chapter 2でたくさんの心理学の解説をしています。ひとつの心理の解説に見開き1ページ分(つまり2ページ)なので、程よいボリューム。
Chapter 1、2合わせて61個の心理について解説しているのですが、Chapter 1で14個、Chapter 2で47個。Chapter 2のボリュームが物凄いです。
で、Chapter 2のIntroduction「人間がものを買ってしまうのにはどんな理由があるのか」を読んだら、まあ大体、トイレットペーパーが無くなった理由は説明ができるのかな、と思いました。
消費者行動を理解する(p.52)
消費者行動には、以下の5段階がある、と。
(1)問題の認識、(2)情報の探索、(3)選択肢の評価、(4)購買決定、(5)購買後の行動(図)
少し広義だが、「(1)問題の認識」の段階は、内面というより外部要因を伴い、ある刺激によって商品にニーズを感じるといったものも含む。
中村和正 [買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61 (2018)株式会社エムディエヌコーポレーション p.52
図を引用させていただきますm(_ _)m

(1)~(5)のプロセスは常に完遂されるものではなく、さまざまな理由で途中で終了してしまうので、各プロセスで適切なアプローチをしていく必要がある。
中村和正 [買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61 (2018)株式会社エムディエヌコーポレーション p.52
今回の騒動をこのプロセスに当てはまるとどうなるかな?と考えてみたんですが、まず(1)問題の認識と(2)情報の検索がほぼ同時に起きたのでは?と。
図によれば(2)の段階は能動的な話だけど、今回の場合は「トイレットペーパーが品薄になる」という情報がテレビやSNSで勝手に飛び込んできて問題を認識した、と。
そして、(3)情報を集めて比較検討とかしてる間もなく商品が売れていく。
正常な判断、心理が働かなくなり、慌てて(4)購入の決断をする。
もしも出先でSNSなどで情報を見て、その後寄ったスーパーで空になりつつある棚・大量のトイレットペーパーを抱えて店から出てくる人を目撃したら。
今家に何ロール残っているのかを確認し、その残りであと何日過ごせるのか、冷静に判断できるだろうか。
コストコなどでの爆買いや、メルカリなどで高額な転売品を買う人が続出する事態も実際にあったようだ。
人間の欲求レベル(p.53)
有名なマズローの欲求五段階の話。
これは人間の欲求を以下のように段階に分けたもので、下の段階の欲求が一定以上満たされると次の段階への欲求が生まれてくるとされている。
これをもとに、提供したいサービスや商品がどの欲求を満たすものであるかを認識しておくといいだろう。
同書 p.53
また図を引用させていただきます。

トイレットペーパーというものはどの段階なのか。
- トイレットペーパーがない=トイレに行けない(お風呂で洗うって荒業もあるが)
- トイレに行けない=食事や水分を控える
- 食事や水分を控える=生命の危険
・・・と、考えると。
1.生理的欲求-生命維持のための食事や睡眠などの本能的な欲求と、2.安全の欲求-外からの脅威や経済面などに怯えることなく安心して暮らしたい欲求の中間くらいに該当するのではないか?
それも、どちらかと言えば1.生理的欲求に近い気がする。
欲求の段階が上がるにつれ緊急性は減少していく。
同書 p.54
1に近いほど緊急性が高いので、そりゃあ欲しくなるよね。
多分具体的にはこういう心理が働いたんだろうなと思うもの
上述した内容はおおまかな話。
本に載っていた内容で具体的に当てはまりそうだな、と思ったものは以下の4つ。
稀少性の原理(pp.124-125)
まあ、一番大きいのはこれだろうなと。
特段欲しくないものであっても希少性が高くなると、手に入れたいと考える心理が働く
同書 p.124
限定品や在庫が少ないと知ると、購入意欲が高まる
希少性の種類には、「数量」「期限」「権利」=「これだけ・今だけ・あなただけ」がある
そもそも人間は、希少なものに対して買いたくなる性質を持ってる。
今回はその対象が、生命を維持し安心して暮らすために必要不可欠なトイレットペーパーであった。
稀少性の原理から言えば、イオン東雲店がこれでもか!という量のトイレットペーパーを陳列した行動は、この騒動をおさめるのにかなりの効果があるに違いない。
ブーメラン効果(pp.130-131)
ここでいうブーメラン効果とは、相手から説得や強制を受けた際に逆の行動・態度を取りたくなるという心理的リアクタンスの一種。心理的リアクタンスとは自由を制限されそうになると時にそれに抵抗しようとする人間の心理的な性質のこと。
同書 p.124
この心理は非常によく分かる(笑)自分がそういう性格だって自覚がある。
トイレットペーパーがどんどん売れて、どこのお店でも「おひとり様1点まで」のような数量制限ができた。
先の稀少性の原理にも通じる部分があるように思う。数量制限があるから、余計手に入れたくなる。
「必要以上に買うな」と言われれば余計買いたくなる。複数のお店をはしごした人もいるのではないだろうか。
怒鳴られた店員さんもいると聞く。かわいそうに。
同調行動(pp.140-141)
集団の中で、人々の意見がある方向に偏り、一致すること。個々人の行動や信念が、所属する団体の規範へ変化すること。意見の変化には社会規範的な影響と、情報的な影響があると見られる。
同書 p.140
「同調の最たる例が流行(ブーム)だ」として、本の中では主にブームについて書かれています。要は「みんながそうしているから、自分も同じことをしてしまう」という心理のこと。
ストックがあって緊急に必要では無くても、「みんながトイレットペーパーを買っているから自分も買う」そういう心理が働いたかもしれない。
同調行動の他の例としては、サクラを使った実験についても書かれています。
1人1人ずつでは100%正当の簡単な課題を、サクラを仕込んでグループで回答させたところ、サクラの意見に左右されて正答率が著しく下がったというもの。
同書 p.140
これは結構恐ろしい話。
トイレットペーパーのデマについては、ニュースになった米子医療生協の職員以外にも、複数の人が同様のツイートをしていたらしいと聞く。
SNSの特性上、デマの情報であったとしても、広く拡散されてしまうことは多々ある。
同調で間違った情報を信じ、下手すると自分がデマを拡散する側になる事もあり得るし、自分が拡散してしまったことで更なる同調が起きることも十分に考えられる。
というか、おそらくそんな感じのことがきっと起きたのだろう。
スリーパー効果(pp.106-107)
信頼性が低い情報源から得られた情報であっても、時間の経過とともに情報源の信頼性が忘れ去られ、フラットな情報として記憶される現象。情報源の信頼性の方が、情報内容より早く忘却するために起こる。
同書 p.106
上述した同調行動に関する考察に通じる部分があるかな。SNSでデマが拡散される怖さ、という点において。
本の中では「なぜ根も葉も無い噂が広まるのか」という見出しで例え話があります。
派手なスクープばかり掲載する週刊誌が報じた有名人AとBの不倫疑惑。こんなものは真に受けず、たいていは読み流すものだろう。しかし、時間が経つと、それをどこで入手したかは忘れてしまい、「そういえば、有名人AとBが不倫していたんだ」という情報だけが記憶に残ってしまうことがある。そして、次には情報だけがその真偽を確かめられることなく誰かに伝達されていく。こうして根も葉もない噂がまことしやかに広まっていく。SNSが普及し、誰もが情報発信者となれる現代では、その広がりの量、スピードは計り知れない。
同書 p.106
長々と引用してしまったけど、ここまで書かないと話が伝わらないのでご容赦を。
トイレットペーパーが品薄になるというデマは、最初こそ「根も葉もない噂」だった。
実際、「トイレットペーパーは中国で作られていて生産がストップしている」というのは事実ではない。でも、トイレットペーパーが無くなるという噂はあっという間に広がり、この騒動につながった。
一度火がついたら、SNSに写真付きで「トイレットペーパーが全然無い!」とつぶやく人が続出し、テレビでも煽りだす始末で、買い占め行為を助長したと言えるだろう。
まとめると、稀少性の原理、ブーメラン効果、同調行動、スリーパー効果、この辺の心理が絡み合い、対象が人が生活する上で結構重要なトイレットペーパー。しかも拡散の早いSNSという場でのデマが発端だったことによる悲劇だったのだろうと思います。
トイレットペーパー騒動から考える医療崩壊の懸念
トイレットペーパーの話だったけどさ、ちょっと想像してみてほしいんです。
そもそも、今世界で何が起きているかを冷静に考えてみて。未知のウイルスの蔓延、感染爆発が起きていて、記事執筆時点でこれと言った治療法が見つかっていない。
買い物に人が殺到するリスク、それで体調を崩して病院にかかるリスク。
もし今回のトイレットペーパー騒動然り、病院に人が殺到するようになったら。
医療崩壊を起こしかねないと思いませんか?
大袈裟だって思う?
トイレットペーパー騒動でお店の店員さんが悲鳴を上げる事態になったのに?
騒動を教訓にデマを信じない・拡散しないよう心掛ける(最後に)
この本は本来、心理学を上手にマーケティングに取り入れて売り上げを伸ばしましょう、というもの。
今回は、トイレットペーパー買い占め騒動の裏にある心理を探る目的で読んでみました。
SNSの使い方は慎重にならないといけないと思うんですよね。私、以前こういうツイートもしました。
SNSは、悪気無くデマを拡散してしまうリスクと付き合わなければならない。
不確かな情報を発言する前に、あるいは、リツイートボタンを気軽に押す前に、一度立ち止まって冷静に考えよう。
・・・自戒をこめて。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。